それは昨夏のでまかせの一言から始まった。
「次は、水樹奈々史上最長ライブ、やっちゃいます!」
半年後、その台詞は横浜アリーナという大舞台で現実のものとなる。
ーーNANA MIZUKI LIVE MUSEUM 2007ーー
全国からファンが集結する
ベストアルバム「THE MUSEUM」を除くアルバムで最も売れたのが「HYBRID UNIVERSE」の約51,000枚(オリコン初登場3位)である。もちろん、声優系アルバムの中では過去のトップクラスの売上。
当日の会場キャパシティは12,000人。
「HYBRID UNIVERSE」の売上の4分の1近くの人たちが一つの場所に集結したことになる。水樹奈々ファンの多くが遠路横浜アリーナまで駆けつけた。日本中からオタクたちが集まったこの団結力は、ライブの最中にも発揮されることになる。
横浜アリーナは一階席がセンター。二階席がアリーナ、三階席がスタンドと三層に客席が別れており、最大収容人数は17,000人にも及ぶ。一人で一万人を超える人数を埋められる力を持つ声優は、現在ならば堀江由衣、田村ゆかり、水樹奈々のいわゆる「御三家」と呼ばれる三人だが、それでも水樹奈々が一歩抜けているとライブを見て改めて感じた。
予定より30分が経過した16時30分頃に会場が暗くなる。
暗夜に灯されるサイリウムが青白い光を放つ。一本、また一本と輝きだした青い灯火はやがて会場中を埋め尽した。暗闇の青光がアリーナの小宇宙を造り出し、一人の声優の登場を待った。12,000本の青い色は、その場にいた誰に取っても一生忘れることができないくらいの鮮やかな輝きだったろう。
ストリングスの響きに合わせて三段式のステージの最上段から姿を現した歌手・水樹奈々。白いフリルのドレスとハットを身にまとい、赤絨毯が敷かれた階段をゆっくりと下りつつ「Tears’ Night」、「TRANSMIGRATION 2007」を朗唱した。
そして開始早々、ステージ席ですっぽ抜けたUO(ウルトラオレンジ)が一本、宙を舞っていた。
今日は何時間でもついてきてくれるよね!
私の後ろの席では水樹奈々の登場に感極まって涙し、前の席では一心不乱に舞台の方を向いてサイリウムを振り、声を上げて応援していた。
「水樹奈々史上最長ライブ、何時間やってもついてきてくれるよね!」と挨拶代わりのMCを終え、「パノラマ-Panorama-」ではエクステのような長い髪を靡かせて、拳を突き上げる。「Nocturne-revision-」を歌い終えると階段まで駆け寄り、彼女はくるんと踊り場で回って退出した。
横浜アリーナでは演奏している舞台から、中央の客席ステージへ向かって一本の花道が伸びている。その先には小さな四角い舞台が用意されている。衣装替えの後の「ミラクル☆フライト」では、花道を渡って会場の中央まで踊り出た。
この光景、どこかで見たことがあると思った人もいるだろう。そう、DVD「NANA CLIPS 3」に収録されている風景と良く似ている。十重二十重に取り囲み、熱狂するファンの央には水樹奈々。以前のライブにあった風景が再現されているような感覚になる。違うのは、彼女の後ろにいるマーチングバンド。横浜ロビンスと言う地元のバンドまで巻き込んだ演奏が盛り上がらないはずはない。
また「still in the groove」では曲の始まりと共に会場上部から花火が飛び散った。水樹奈々は黒と金色の機能美を誇るスパンコールドレスに身を包み、おなじみになったタテノリダンスを披露。今回はバックダンサーも総勢16人という大所帯でのダンスシーンは、規模の大きさを物語る。
「それでも君を想い出すから -again-」が終わると、舞台は一転。ギタリストを伴って、中央の小さな四角い舞台へと舞い戻り、弾き語りのように座って歌いだす。アコースティックに選ばれた曲は「光」と「水中の青空」の二曲。目を閉じて聞いても大丈夫。穏やかな時が流れ出す。
一礼した後、再び舞台から姿を消した水樹奈々の代わりにバンドメンバーたちが演奏をしながら自己紹介を始める。語るべきは言葉ではない。音楽だ。
(水樹奈々を支える)チェリーボーイズメンバー
ドラム / 渡辺豊・松永俊弥 ギター / 北島健二・渡辺格(いたる)
キーボード / 大平勉 ベース / 坂本竜太
アカイキオク
緑を基調とした衣装、三銃士のような出で立ちで、細剣を腰に差す姿は凛としたシュヴァリエ。緑色の対として、「にじみ出るような紅」をイメージしたという深紅の曲が流れ出す。
曲はもちろん「Justice to Believe」。LIVE MUSEUM 2007のクライマックスが早くもやってきた。
暗闇の青は光を閉ざし、代わりに曲のイメージのような赤い光が散らばりだす。
その間、僅か数秒だったろうか。「にじみ出るような紅」を想起する風景がそのまま、万を越える赤い光がアリーナ中を包み込んだのだ。
事前に「Justice to Believe」の時だけ通常の青いサイリウムを赤に代え、会場を青い色から赤い色に染め上げようと言う企画「アカイキオク」が水樹奈々のファンサイトやブログを中心に告知していた。田村ゆかりファンの団結力は強いと聞いていた。しかし、逆に水樹奈々のつながりには疑問符を付けていた私にとって、この企画は大丈夫なのだろうかという不安がつきまとっていた。
しかし、目にしたのは12,000本もの赤いサイリウムが放つ光。この瞬間、客席はひとつになった。直後の「ETARNAL BRAZE」でもしかり。炎を現したUOの強いオレンジ光が客席から輝きだす。その数、およそ6,000本。会場の約半数が企画もなしに色を統一した事に驚く。
新曲「SECRET AMBITION」を初披露
最高潮を維持したまま、三銃士から変化した水樹奈々。リス耳を身につけたまま「SUPER GENERATION」へと続く。サイリウムに導かれ、会場内の暗い海を渡るのは「SUPER GENERATION」の曲に流れるように星の船(※ ただし動力は人力)。舞台から遠く離れた、最後尾のスタンド側に設置されたステージで「アオイイロ」を歌った。
MUSEUMということで、懐かしい曲や新曲も歌っている。「1万人のモンキーダンスを見たいよね!」との紹介から始まり、昔のライブではおなじみだった「アノネ〜まみむめ☆もがちょ!!〜」ではモンキーダンスを踊った。「THE MUSEUM」での新曲「Crystal Letter」では白いブーケを被った水樹奈々が感情を込めて歌い、上空からは白い淡雪が降り注いだ。
一息ついたMCでは、4月から始まる新番組「魔法少女リリカルなのはStrikerS」の主題歌を歌う事になった報告をする。水樹奈々の新曲披露は自身のラジオ「水樹奈々のスマイルギャング」で始めて公開することが多いのだが、今日は特別な日。いつもとは違う。
2007年2月にベストアルバムを出し、ライブを行う。また、同年4月に、新シングルを発表。それはヒットが限りなく約束されている「魔法少女リリカルなのはStrikerS」の主題歌。歌手にとって、ベストアルバムの直後のシングルは、今後の人気を左右する程の重要な位置づけにあるのだが、そのシングルがオリコン1位を狙おうかという程の作品をぶつけて来るのだ。
それが「SECRET AMBITION」。「できたてほやほやの新曲、歌っちゃったりなんかして〜」と、思わせぶりな態度を彼女が取ると、会場からは「おお〜」というどよめきが起こり、ライブ中の熱を帯びたような大歓声となった。
水樹奈々、次作の戦略にも死角なし。
その後は「Suddenly」の名の通り、姿が消えたかと思えば会場後ろから歌いだす。「The place of happiness」、「WILD EYES」を熱唱し、「ひとつだけ誓えるなら」でクールダウン。一通りの演目を歌い終えた。アンコールで登場したおなじみの元祖タオル曲「PROTECTION」では、事前の説明なしでタオル曲が始まった。
時間が押していたのかもしれないが、できればタオル曲の説明を入れた方が良かったように思えた。もうひとつ個人的な不満を述べると、「innocent starter」を歌って欲しかった。「魔法少女リリカルなのは」の新曲と相殺されたのだが、この曲をなくして水樹奈々は語れない。
最後に歌われた曲はデビュー曲である「想い」。
アリーナ中に「ありがとう」そして、会場全員での「POWER GATE」の大合唱で4時間近くに及んだライブは幕を閉じた。
水樹奈々を支えてくれている全ての人へ
少女は歌う事が好きだった。
マイクに向かって歌う姿が一番自分らしいと思っていた。
歌になら、自分の思いをいっぱい伝えられると思っていた。
新居浜で育った少女が一人、東京へ発つ。
それから長い月日が過ぎた。
声優・水樹奈々となった今、彼女は横浜アリーナという大きな舞台に立っている。
ありがとうという気持ちを歌に乗せて伝えたいと思っていた。
「今日、この想いはみんなに届いたかなぁ……」
両手を広げ、天を仰いだ彼女は涙声で「みんな、本当にありがとう」と呟き、会場からはすすり泣きと嗚咽の声が聞こえていた。
ベストアルバムは集大成ではあるが、通過点でしかない。
自分の想いを伝えるために、これからも彼女はこう言うだろう。
「水樹奈々を支えてくれている全ての人へ、想いを込めて歌います。曲はーー」
演奏曲一覧
01.Tears’ Night
02.TRANSMIGRATION2007
03.パノラマ-Panorama-
04.Nocturne -revision-
05.ミラクル☆フライト
06.Violetta
07.still in the groove
08.それでも君を想い出すから -again-
09.光(アコースティック)
10.水中の青空(アコースティック)
11.Justice to Believe (MUSEUM STYLE)
12.ETARNAL BRAZE
13.SUPER GENERATION
14.アオイイロ
15.アノネ〜まみむめ☆もがちょ!!〜
16.POWER GATE
17.Heaven Knows
18.Crystal Letter
19.SECRET AMBITION
20.suddenly〜巡り合えて〜
21.The place of happiness
22.WILD EYES
-MC- ママからの手紙
23.ひとつだけ誓えるなら
ーーアンコールーー
01.残光のガイア
02.New Sensation
03.PROTECTION
ーーアンコールーー
04.想い
05.POWER GATE(合唱)
会場:横浜アリーナ / 2007年2月12日(月) 16:25頃開演(25分遅れ)
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