野音の勢いもそのままに、大阪の地へ
白い空に少しずつ群青色が加わり、次第に夕陽の橙色が混じり、陽は落ちて辺りは闇に包まれる。初の野外公演となった7月の日比谷野外音楽堂では、ライブの曲に合わせて時の流れを表現していたかのようだった。今回の「LIVE UNIVERSE」ほど曲順と時間を意識したことはなかっただろう。
そんな一日から二週間が過ぎた。
少し早く着いて、会場であるウェルシティ大阪厚生年金会館を見渡してみよう。意外に女性が多いことに気づくだろう(※)。会場前の道路を隔てた向かい側には、広場と公園が隣接している。持ち込んだラジカセを使って音楽を流したり、談笑したり、コールブックを配るのに余念がなかったり、本を読みながら過ごしたり。それぞれ態度は違えど、思いはひとつ。
奈々ちゃんに会いたい。
生歌を聴きたい。
野音の勢いもそのままに、水樹奈々は大阪の地へとやってきた。
※ 人気声優の証。と言っても、その内訳は「男8.5:女1.5」くらいですが。
「Take a shot」で幕が開け
公演開始時刻の18時30分を少し過ぎた頃に、会場は暗転。会場内のサイリウムの多くが青色に揺らめいた。「LIVE UNIVERSE 2006」は、ライブ前に発売された五枚目のアルバム「HYBRID UNIVERSE」に基づいている。始まりの曲ならばストリングスとケルト系民族楽器を使用し、夕陽が落ちるイメージが浮かぶ「残光のガイア」が来ると予想していた。
ギターの音が高鳴る。
1曲目は「魔法少女リリカルなのは」のフェイト役でおなじみ「Take a shot」。
赤い光条がひとつ落とされる。光の中央にはもちろん水樹奈々。舞台は二階建てになっており、二階から表れた水樹奈々は歌いながら一階の舞台中央へと降りて、叫ぶ。
「声上げてー!」
2曲目、「Whats cheer?」では「踊ってー!」と指示をする。二曲とも盛り上げるための曲だ。曲の合間のMCで彼女は言った。「今日は本気でかかってきてね!」と。
水樹奈々の七変化
「HYBRID UNIVERSE」では、普段以上に多数の作曲陣が参加していた。それぞれの個性が集まり、ぶつかりあって生まれた曲は、その曲を演じる水樹奈々自身の幅を広げたように思える。
幅は衣装にも現れている。まずは、4、5曲目からはネコミミで歌う「二人のmemory」と「NAKED FEELS」。どうせならば「Take a shot」の出だしからフェイトのコスプレをして欲しかったのだが、さすがにそれは無理と言うものか。
目を引く衣装はまだ続く。バンドメンバーとダンサーを紹介している間に、彼女は舞台の袖に引っ込み、私たちの想像を絶する服装に着替えていたのだ。
出てきたらメイド服。
これには本職のメイドも驚きだろう。
ピンク色のメイド服に身を包み、動くたびに白いフリルが揺れる。「You have a dream」や「Love Trippin’」をチャーミングに歌う。特に8曲目の「Love Trippin’」は男の子視点の歌だが、まさにメイド服で歌ってよ! と言えるほどのポップで可愛い曲。本人はいい加減大人志向を目指したいと語っているが、小柄で童顔の水樹奈々には本当にメイド服も良く似合う。
メイド姿で歌い終え、そのままMCへと突入。
すると、さっきまでの堂々と歌っていたのに、もうその服装を恥ずかしがっていた。皆から「奈々ちゃん回ってー!」と声が飛んでいたが(なぜ回したがる(笑)?)、照れながら回るサービスをしていた。見られた人は幸せになっただろう。その姿まさに、眼福。
恒例コーナーと新タオル曲が登場
甘い時間から一転、今度こそ民族調の音楽が流れてきた。
後半戦の1曲目(9曲目)に「残光のガイア」を持ってきた。仕切り直した水樹奈々は、持ち前の歌唱力を発揮する。10曲目は「ETERNAL BRAZE」。奇しくも、前日のコミケで「魔法少女リリカルなのは」のシリーズ続編放送が決定しただけに、オープニング曲だったこの曲も喜んでいるようにも聴こえた。
夏のライブツアーの恒例である歌の企画コーナーも健在だ。「LIVE UNIVERSE 2006」では、これまでに水樹奈々が出演したアニメの曲を8曲選び、その中から各会場でひとつずつ曲を歌うというものだった。
大阪では「瓶詰妖精」が選ばれた。
この曲は4人で歌い、しかも歌詞を一番しか作っていない珍しい曲。しかし、「らんらんらーん、らーら♪」という、一度聞くと頭に残る電波性の強い曲でもある。
この曲を二回歌うことになった。
一度目は伴奏つきで。歌詞の二番があると思った人もいたのだろう。コーナーがすぐに終わった事に対して「えぇー」という声が飛ぶ。アドリブで同じ曲の二回目を歌うことになった。二回目はアカペラで。予想外の展開になったことに、少し困ったように、またそれを楽しむかのように歌っていた。
また、タオルを利用した曲も登場。それが「PRIMAL AFFECTION」。タオル曲には事前に公式振り付けの説明がある。今までタオル曲には、「PROTECTION」「BE READY」「jump!」があるが、それに追加される新しい曲になった。今度は元祖タオル曲の「PROTECTION」もぜひ歌って欲しい所だ。
タテノリナンバーが続く構成へ
「家の窓ガラスに向かって(フラメンコの踊りを)研究したの」と話していた13曲目の「Faith」。バックダンサーの四人も含めて統制の取れた踊りを披露する。16曲目の「POWER GATE」17曲目の「TRANSMIGRATION」の2曲で会場は最高潮に達した。きっと舞台から見ると、観客がうねりをあげているように見えたことだろう。
ラストは熱狂したライブのクールダウンに用意されたか、はたまた初の野外ライブのためにとって置いたか「星空と月と花火の下」。日比谷では夜空の下でこの曲を聴いたという。こちらは屋内。しかし、水樹奈々の歌には変わりはない。同じ空の下だ。
ずっと聴きたかった「innocent starter」
アンコールを客席から叫んでいる間に、まわりは全員ハチマキをつけていた手際の良さ。アンコールは2曲。「RUSH & DUSH!」と、もうひとつは「innocent starter」。2005年は水樹奈々のライブに私は一度も参加できなかったので、実はこの曲を生で聴くのは初めてになる。
イントロが流れ出した時、立ち尽くしてしまった。
メモを取るのを忘れ、サイリウムも振らず、音が出す空気の振動を感じながら、ただ、ただ、聴いていた。長い間探していた落し物が手元に戻るような、自分の心の中にピタッと失われたかけらが埋め込まれたかのような感覚。
――それだけこの曲を切望していたんだ。
「innocent starter」に巡り会って、そして今、この場で生歌を聴けたことのなんという幸運なことか。来年の夏も同じように、「innocent starter」や「ETARNAL BRAZE」に続く「魔法少女リリカルなのは」の主題歌を手土産に、ライブ会場で巡り会える。そう私は信じている。
演奏曲一覧
01.Take a shot
02.What cheer?
03.Last summer Tale
04.二人のMemory
05.NAKED FEELS
06.You have a dream
07.NANA色のように
08.Love Trippin’
09.残光のガイア
10.リプレイマシン
11.ETERNAL BRAZE
12.おしえてせんせいさん(瓶詰妖精)
13.PRIMAL AFFECTION
14.Faith
15.inside of mind
16.SUPER GENERATION
17.POWER GATE
18.TRANSMIGRATION
19.星空と月と花火の下
〜アンコール〜
01.innocent starter
02.RUSH & DUSH!
会場:ウェルシティ大阪厚生年金会館 大ホール / 2006年8月12日(土) 18:30開演
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